真夜中のラヂオ

当たり



 年末だからか商店街はずいぶん混んでいた。人混みでオレより背の高いたくさんの大人とぶつかりながら、ねえちゃんと歩いていた。前の方を見ると人だかりが出来てるテントが立っていた。カラーン、カラーンと鐘の音が聞こえた。
「あっ、尽。福引きだよ! ちょうど一回分あるから行ってきたら?」
「うん!」
 つい思いっきり返事をしてしまった。まるでガキじゃないか。慌てて付け足して言った。
「いや、ねえちゃんがいかないなら……もったないないからオレが行ってきてやるよ」
「うん、お願い」
 なんかわかってるって顔して笑った。ちょっと面白くないけどまあいいことにして、早速福引きの列に並んだ。前のおじさんは何故か何十枚も福引券を持っていた。なんだかオレが引く前になくなってしまうんじゃないかと思った。
「そういえば、一等って何だろ」
 聞くとねえちゃんは列から離れて背伸びした。
「うーん……あ、温泉旅行だって!」
「へぇー、いいなあ」
「そういえば家族旅行なんてしばらく行ってないもんね。出すなら赤い玉だよ、尽」
 前の人垣の隙間からなんとか見てみると二等はピンクでフラットテレビ、三等は青で最新ゲーム機だった。ついでにハズレは白でポケットティッシュだ。三等もなかなか捨てがたいな、と色々考えていると前のおじさんに順番が回ってきた。ハッピを着た係りの人が数えたら福引き券はなんと十一回分もあった。
「すごいね、尽」
「うん……ちぇ、こっちはたった一回分かよ。……なあねえちゃん、もう何か買い物とかないの?」
「残念でした。もうお母さんから頼まれたものも買っちゃったし、わたしの欲しかったCDも買ったもん」
「なーんだ」
「言っとくけど、わたしの買い物もあるから引けるんだからね」
「はいはい……」
 じゃらんと玉が移動する音が立った。これを聞くとなんだかわくわくしてくる。おじさんは勢いがいい人らしく、箱を連続して次々と回していった。転がり出た玉は白、白、白、白、白、白、白、白、白、白。うわ、ハズレばっか。
 おじさんの眉がむっと寄って、最後の一回しの前で回すのをやめた。係りの人も気の毒そうな顔して困っている。なにがでるのかやっぱり興味があるのでうんと背伸びをした。鼻息を荒くつくと、おじさんはびっくりするような勢いで回した。
 でも玉は出なかった。おじさんが箱の取っ手を掴んだまま不思議そうに穴を見た。
「おかしいな、どうしたんだ?」
「回転が早すぎて玉が出なかったようです。もう少し、ゆっくり回してもらえませんか?」
「よしわかったぞ」
 もう一回、今度はゆっくり回したからちゃんと玉は出た。
「おおっ、出た出た」
 玉は白だった。
「六等です。ありがとうございましたー!!」
 おじさんはがっかりしたように少し肩を落として列から離れていった。
「あんなにたくさん回したのに……。せめて五等とか当たったらよかったのにね」
「まあ、オレにまかせといてよ。三等くらいは取ってやるからさ」
「三等って……あの最新ゲーム機?」
「そっ」
 気合いを入れて取っ手を掴む。深呼吸をひとつついて、いち、にい、さんとリズムよくゆっくり回す。この、手にずっしりとくる重さとドキドキ感が福引きの醍醐味だよな、なんて思いながら箱を一回転させると玉が出た。
「あっ!!」
 ねえちゃんのでっかい声が辺りにまで響いた。
「おめでとうございます!! 一等です〜!」
 何度も鳴らされる鐘の音と大声に通りすがりの人達までが振り返ってこっちを見てる。
「やったぞ、ねえちゃん!」
 ねえちゃんはただぽかんと玉を見てる。係りの人にここに名前をかいて下さいだの、温泉旅行は何泊何日です、なんて言われて当たった実感もそれほどないまま、白い袋の目録と旅館のパンフレットをもらって家に帰った。


 もちろん話を聞いたお母さんはまず驚いて、その次に喜んで親戚中に電話をかけた。ねえちゃんはすごいの連発だった。お父さんにはえらいぞって、小さかったときみたいに頭を撫でられた。ちょっと照れくさかった。
 嬉しいけど、まさかホントに当たるなんて思ってもみなかった。おまけにゲーム機のほうも良かったなあ、なんて気持ちも少しあったけど、温泉に行くのがだんだん楽しみになってきた。
 温泉旅行は泊まる日にちが決められた一泊二日、四名までご招待だ。と言っても旅館までは自分たちで行ってくれって注意書きがついてる。てっきり指定席のチケットも入っているかと思ってたのに意外とケチだ。でも泊まるのはタダだし、まあいっか。
 ちょうどお父さんも休みの日だったから、一家で温泉旅行に行くことがすぐ決まった。ねえちゃんもお母さんも一緒になって何着てこうとか、準備はどうしようとか話してる。お父さんも次の日曜に車をみがくか、なんて言ってる。
 まったく、気が早いんだからなあ。

(2003年3月26日) 

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